金沢大学医薬保健研究域医学系脳神経内科学の小野賢二郎教授,昭和大学医学部内科学講座脳神経内科学部門の井藤尚仁助教,薬理科学研究センターの辻まゆみ教授らの研究グループは,大阪大学脳神経内科学の望月秀樹教授らとともに,パーキンソン病(※1)の原因タンパクと考えられているα-シヌクレイン(αS)(※2)の凝集体による細胞傷害機序の一端を明らかにしました。
α-シヌクレインは細胞内で凝集していく過程で細胞毒性を発揮すると考えられていますが,本研究では細胞外に放出されたα-シヌクレインの高分子オリゴマー(HMW-αSo)によって細胞膜が損傷され,神経細胞死を誘導することが分かり,パーキンソン病の発症に関わる細胞傷害機序の一端を明らかにしました。
これらの知見から,細胞外 HMW-αSoを標的とした抗体療法が疾患修飾療法として有用となることが期待されます。
本研究成果は,2023 年 9 月 28 日に国際学術誌『npj Parkinson’s Disease』のオンライン版に掲載されました。
図:HMW-αSoによる神経細胞傷害機序
HMW-αSoは酸化ストレスを誘導し,それにより細胞膜の流動性を低下させ,細胞内Ca2+の恒常性を破綻させます。膜傷害の過程でデスレセプターが刺激され,外因性アポトーシスが引き起こされます。
【用語解説】
※1:パーキンソン病(PD)(Parkinson’s disease)
脳内のドパミン神経細胞が減ってしまうことで発症する神経変性疾患です。動作が遅くなり,⼿⾜の振るえや筋⾁のこわばり,などの運動症状を伴います。さらに⾃律神経障害や睡眠障害,精神症状などのさまざまな⾮運動症状を認めることも特徴です。
※2︓α-シヌクレイン(αS)(α-Synuclein)
αS は SNCA 遺伝⼦にコードされた分⼦量 14 kDa,140 アミノ酸から構成されるタンパク質です。脳可溶性タンパクの約 1%を占めておりヒト脳内に豊富に存在していますが,凝集・蓄積することによって,神経細胞毒性を持つと考えられています。
ジャーナル名:npj Parkinson’s Disease
研究者情報:小野 賢二郎