乳がんの再発を起こす原因細胞を解明

掲載日:2023-12-1
研究

 金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授,帝京大学先端総合研究機構の岡本康司教授,東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授,東京大学定量生命科学研究所の中戸隆一郎准教授,東京大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学の田辺真彦准教授,京都大学大学院医学系研究科の小川誠司教授,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の浅原弘嗣教授,神奈川県立がんセンター臨床研究所の宮城洋平所長,佐藤慎哉医長らの共同研究グループは,乳がん再発の原因細胞の取り出しに成功しました。

 乳がんは,日本や欧米など世界的に女性が罹患する最も多いがんです。最新の統計では,生涯のうちに日本人女性の 9 人に 1 人が乳がんに罹患することが見込まれ,さらに,罹患者数のみならず死亡数も増加傾向にあり,大きな問題になっています。診断技術や分子標的薬の進歩などにより,治癒を見込める乳がん症例が増えてきている一方で,完治したはずの乳がんが,数年~10 数年後に転移再発して不幸な転帰をたどる症例が一定数あることが,死亡数増加の要因の一つとなっています。

 手術前に,抗がん剤や分子標的薬による全身治療を行う「術前全身治療」後,手術切除した乳腺組織内にがん細胞が残存する症例では,転移再発しやすいことが知られています。この転移再発を起こすがん細胞が,抗がん剤などの治療に対して抵抗性を示すメカニズムは不明です。このメカニズムが分かれば,転移再発を減らして乳がんによる死亡数を減少させられると考えられます。

 本研究では,幹細胞の性質を持つ,いわゆる「がん幹細胞」の細胞集団の中に,抗がん剤などの治療に対して最も耐性を示す亜集団を見いだして,取り出すことに成功しました。さらに,古くより心不全の治療に用いられてきた強心配糖体を用いることにより,この治療抵抗性のがん幹細胞亜集団を死滅させられることを見いだしました。本知見は,強心配糖体を組み合わせた術前化学療法を行うことにより,乳がん再発を予防できる可能性を示し,乳がんの撲滅に貢献できることが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 11 月 15 日 12 時(米国東部標準時間)に国際学術誌『Journal of Clinical Investigation』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1:トリプルネガティブ乳がん患者様由来細胞を NRP1 もしくは IGF1R に対する抗体を用いてがん幹細胞を濃縮後,シングルセルRNA シークエンスを行った結果を Uniform manifold approximation and projection (UMAP)にて示した。

 

 

図2:術前全身治療後の残存がん細胞(まる囲み)は,NRP1 と FXYD3 が高く発現する祖先がん幹細胞集団である。

 

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Journal of Clinical Investigation

研究者情報:後藤 典子

 

 

 

 

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