金沢大学ナノ生命科学研究所の華山力成教授,吉田孟史特任助教,理工研究域フロンティア工学系の瀬戸章文教授らの研究グループは,シリカナノ粒子が引き起こす上皮細胞傷害において,分泌される細胞外小胞エクソソームが細胞傷害に対して防御効果を担うことを発見しました。
エクソソームは,ほぼ全ての種類の細胞が分泌するナノサイズ(直径50~150 nm 程度)の膜小胞で,分泌細胞由来の脂質・蛋白質・RNA などを他細胞へと受け渡すことで,免疫制御や神経変性,がん進展などさまざまな生理現象や病気の発症に関与すると考えられています。近年,食品・化粧品の添加物としてシリカナノ粒子の利用が増加しており,体内でそれらが生体ナノ粒子エクソソームと,どのような相互作用を引き起こすのかを理解することは,シリカナノ粒子を安全に利用する上で重要です。
本研究グループは,上皮細胞へのさまざまな粒子サイズのシリカナノ粒子曝露実験によって,直径50 nmのシリカナノ粒子の高濃度曝露が,エクソソームの分泌を引き起こすことを発見しました。さらに,分泌されたエクソソームは,シリカナノ粒子の凝集を促進することで上皮細胞への再取り込みを抑制し,上皮細胞の傷害やがん化に対して防御効果を示すことを明らかにしました。
今後も食品・化粧品の添加物としてさまざまな機能を付加したシリカナノ粒子の開発が予想されるなかで,シリカナノ粒子を安全に利用するために,その生体への影響評価はますます重要になってきます。本研究で得られた知見をもとに,さらなる生体影響評価を行うことで,安全なシリカナノ粒子の開発とその利用に貢献することが期待されます。
本研究成果は,2024年3月26日に米国科学誌『Archives of Biochemistry and Biophysics』のオンライン版に掲載されました。
エクソソーム分泌阻害剤を処理した上皮細胞に,直径50 nmのシリカナノ粒子を曝露し細胞傷害性を比較した。エクソソームを正常に分泌するコントロール細胞(DMSO)と比較して,エクソソーム分泌が阻害された細胞(AA2あるいはAA2 + GW4869)では細胞傷害性が増強した。このことから,エクソソーム分泌がシリカナノ粒子による細胞傷害性に防御効果を示すことが判明した。
図2:シリカナノ粒子の上皮細胞への作用機構
直径50 nmのシリカナノ粒子は,上皮細胞に取り込まれ細胞傷害や上皮細胞のがん化を引き起こす。細胞は,エクソソーム分泌経路を介して取り込んだシリカナノ粒子を,エクソソームと共に細胞外へ放出する。このとき,分泌されたエクソソームはシリカナノ粒子の凝集を促進することで,粒子の再取り込みを阻害し,細胞をシリカナノ粒子の毒性から防御する。
ジャーナル名:Archives of Biochemistry and Biophysics