肺がんに対する革新的な治療法を開発!

掲載日:2024-7-4
研究

 金沢大学がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の福田康二助教,金沢大学附属病院腫瘍内科/ナノ生命科学研究所の竹内伸司講師,金沢大学附属病院呼吸器内科/ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の矢野聖二教授らの研究グループは,KRAS(※1)遺伝子変異を持つ肺がん(KRAS 肺がん)に対する WEE1(※2)タンパクを標的とした新しい治療法の開発に成功しました。

 肺がんは日本で最も死亡率が高いがんであり,KRAS 遺伝子変異は日本人肺腺がん患者さんの約 10%に検出され,がんの発生や進展を強く促進する遺伝子異常であることが知られています。KRAS を標的にした治療薬は長年開発が進みませんでしたが,最近日本でも,KRAS-G12C 変異に特異的な阻害薬(KRAS-G12C 阻害薬)が肺がんで承認されました。しかし,有効性が限定的で耐性が課題であり,より効果的な治療法の開発が切望されています。

 本研究では,KRAS 変異肺がんにおいて,746 種類の遺伝子を実験的に破壊することで探索し,WEE1 という分子を新しい治療標的として同定しました。さらに,本研究グループは,TP53 というがん抑制遺伝子の変異も共存している KRAS-G12C 肺がんに対して,WEE1 阻害薬と KRAS-G12C 阻害薬を組み合わせることで,肺がん細胞をほぼ消失させる顕著な効果を確認し,非常に有望な治療であることを明らかにしました。

 これらの知見は,KRAS 阻害薬単独の有効性が限定的である KRAS 肺がんに,新たな治療選択肢を提供し,生存率の向上に貢献することが期待されます。

 本研究成果は,2024 年 5 月 21 日 11 時(米国東部標準時間)に国際学術誌 『Cell Reports Medicine』のオンライン版に掲載されました。

 

 

図 1: 二つの KRAS 肺がん細胞において 746 種類の網羅的な遺伝子破壊実験を行った結果,WEE1遺伝子の破壊が最も強くがん細胞の生存を阻害できることを示した。 

 

 

図 2: KRAS-G12C 変異を持つ肺がん患者のがん組織をマウスに移植したモデル(PDXモデル)での実験において,二つの薬剤の併用治療により腫瘍がほぼ消失する結果が得られた。

 

 

図 3: 二つの薬剤によって肺がん細胞を死に至らせる仕組み。一つ目の薬(KRAS-G12C阻害薬)は,がん細胞の DNA にダメージを与える。しかし,がん細胞は WEE1 を使ってこのダメージを修復し,生き延びることができる(左図)。そこで,二つ目の薬である WEE1 阻害薬を同時に使用することで,この修復プロセスを止め,結果的にがん細胞を死滅させることができる(右図)。

 

 

【用語解説】

※1:KRAS
 KRAS は,細胞の成長や分裂を調節するタンパク質であり,正常な KRAS は,細胞に成長や分裂の指示を出す。しかし,KRAS 遺伝子に変異が起こると,細胞が制御不能に増殖し,がんの原因となる。特に,KRAS 変異は肺がん,大腸がん,膵臓がんなどに関与していることが明らかとなっている。

※2:WEE1
 WEE1 は,細胞周期を調節するタンパク質である。細胞周期とは,細胞が成長し,分裂する過程のこと。WEE1 は,細胞周期のブレーキとして機能し,細胞が損傷を受けたときに修復するための時間を生み出す役割を担っている。WEE1 が正常に機能しない場合,損傷を受けた細胞が修復されずに分裂を続けることがあり,細胞は死滅する。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Cell Reports Medicine

研究者情報:福田 康二
      竹内 伸司

 

 

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