金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のアイハン・ユルトセベル特任助教、福間剛士教授、理工研究域物質化学系/WPI-NanoLSIの淺川雅教授らの研究グループは、広島大学の池上浩司教授、浜松医科大学の瀬藤光利教授らと共同で、細胞骨格である微小管の内側構造を原子間力顕微鏡で高分解能観察し、生体機能に関わる微細構造を可視化することに成功しました。
主要な細胞骨格である微小管は、細胞分裂や細胞内輸送などの細胞プロセスで重要な役割を果たします。主にα-チューブリンとβ-チューブリンと呼ばれる 2 種類の球状タンパク質で構成されており、α-、β-チューブリンヘテロ二量体が基本単位となります。それらが直線的に重合することでプロトフィラメントと呼ばれる集合体となり、それが最終的に円筒形の微小管を形成します。微小管の内側には、抗がん剤の結合部位などの重要な微細構造が存在するため、高分解能での構造解析が期待されていました。しかし、これまで生理学的条件下で微小管の内側構造を高分解能観察することはあらゆる分析手法を用いても非常に困難でした。
そこで本研究では、液中でサブナノメートル分解能を有する周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM、※1)を用いて、これらの技術課題を打破しました。微小管が円筒形からシート状集合体へ構造変化することを利用し、微小管の生体機能に関わる継ぎ目構造(seam line)や構成タンパク質の欠陥構造に加えて、抗がん剤として用いられるタキソールの結合を直接観察することに成功しました。
これらの知見は、さまざまな細胞プロセスにおける微小管の役割についてより深く理解することに繋がり、それらが関わるがんなどの疾患に対して、より特異的で効率的な新薬の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024 年 11 月 21 日(米国東部時間)に米国科学誌『Nano Letters』のオンライン版に掲載されました。また本誌の表紙(Front Cover)に採用されることが決定しています。
図 1:原子間力顕微鏡による微小管の外側および内側表面の高分解能観察
図 2: シート状に構造変化した微小管の内側構造の微小構造の可視化
【用語解説】
※1:周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)
原子間力顕微鏡は、先端が鋭く尖った針(探針)で観察対象をなぞることにより、その探針の動きから表面構造の凹凸を反映した画像を取得する顕微鏡。周波数変調モードと呼ばれる計測手法を組み合わせることで、生理学的条件の水溶液中でも原子・分子レ
ベルの微細構造を捉えることが可能である。
ジャーナル名:Nano Letters
研究者情報:アイハン・ユルトセベル