医薬保健研究域医学系の新明洋平准教授らは,以前に独自に発見した分子Draxin(視床皮質軸索の形成を制御する遺伝子)が脳の神経回路形成の制御に重要な役割を果たしていることを世界で初めて突き止めました。
脳では膨大な数の神経回路が複雑なネットワークを形成し情報のやり取りを行っており,その基本構造は神経細胞が長い突起(軸索)を延ばして標的となる神経細胞に結合することにより形成されるため,正確に神経細胞が結合するためには,神経細胞の軸索が正しい標的に向かって伸びていく必要があります。今回の研究では,大脳皮質と視床と呼ばれる脳領域間の結合に着目し,皮質視床軸索から分泌されるDraxinが視床皮質軸索の形成を制御することを発見。Draxin遺伝子を欠損するマウスでは,多くの視床皮質軸索が大脳皮質に向かって伸長できなることが分かりました。視床皮質軸索の形成には,大脳皮質から視床に伸長する軸索(皮質視床軸索)が必須であることが20年以上前から分かっていましたが,その仕組みについてはよくわかっていませんでした。本研究の結果は,積年の疑問であった皮質視床軸索と視床皮質軸索間の相互作用の解明に繋がる重要な新知見となります。
本研究で明らかになった神経軸索が形成される仕組みは,今後の脳疾患発症の仕組みの解明や神経再生医療による治療法の開発に繋がることが期待されます。
本研究の成果は,12月14日に「Nature Communications」(英国科学誌)のオンライン版に掲載されました。
【用語解説】
大脳皮質:大脳の表面に広がる神経細胞の層構造。高次脳機能に重要な役割を果たす。
視床:間脳の一部で脳の深部に位置する。視覚,聴覚,体性感覚などの感覚入力を大脳皮質へ中継する重要な役割を担う。
神経軸索:神経細胞から伸びている突起状の構造で,信号の出力を担う。
Draxin:分泌型のタンパク質で,神経軸索の走行を制御する分子。新明准教授らによって発見された分子であり,最初の論文は2009年にScience誌に掲載された。