医薬保健研究域医学系干場義生研究員および医薬保健研究域附属 脳・肝インターフェースメディシン研究センター河﨑洋志教授らの研究グループは,高次脳機能の中枢と考えられている大脳皮質の発達をつかさどる遺伝子を発見しました。この遺伝子Sox11(※)は自閉症や知的障害との関連が過去に報告されていることから,今回の成果は精神疾患や発達障害の病態理解にもつながることが期待されます。
神経細胞は樹状突起と呼ばれる特殊構造(図1)を用いて,他の神経細胞とのあいだで情報のやりとりを行います。発達期の幼い頃,赤ちゃんが生まれた直後の時期に,樹状突起は伸び出していきますが(図2),発達期に正しく樹状突起が形作られないと神経細胞の情報交換に異常を来し,脳の働きに著しい障害が生じます。
本研究グループは今回,発達期の幼い頃に大脳皮質で重要な役割を持つと思われる遺伝子を探索。その結果,Sox11が樹状突起の発達を止めているブレーキとして働き,Sox11が失われることで樹状突起の発達が始まることを突き止めました(図3)。このことは,Sox11が樹状突起の発達をつかさどる主要な遺伝子であることを意味します。樹状突起の発達を抑制するブレーキ遺伝子は過去に報告がほとんどなく,転写因子としては初めての報告です。また過去に別グループから,自閉症関連疾患や知的障害の患者さんでのSox11の異常が報告されていることから,本研究成果を突破口としてこれらの疾患病態の解明や治療法の開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は,2016年5月25日発行の米国科学誌「Journal of Neuroscience」のオンライン版に掲載されました。
※ Sox11
Soxと呼ばれる胎児期に身体を形作る際に重要な遺伝子グループに属する遺伝子の一つ。Sox遺伝子の11番目。転写因子と呼ばれる働きを持つ。自閉症や知的障害の患者さんでSox11の異常が報告されており,これらの疾患と関連する可能性がある。