金沢大学医薬保健研究域附属脳・肝インターフェースメディシン研究センターの河﨑洋志教授,東京大学大学院医学系研究科の戸田智久博士研究員(論文投稿時)らの研究グループは,独自の研究技術を使って,これまで解析が困難だった大脳皮質(※1)に脳回(※2)が作られる仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。
ヒトなどの高等な動物は脳回が存在することによって,より多くの神経細胞を持つことが可能になり,脳機能を発達させることができたと考えられています。しかし,研究で広く使われているマウスの脳には脳回が存在しないため,マウスを用いた脳回に関する研究はほとんど進んでいませんでした。本研究グループは,マウスよりもさらにヒトに近い脳を持つ動物の研究が必要であると考え,フェレットを用いた研究技術開発を推進。高等な動物の脳を用いた遺伝子研究で世界をリードしてきました。今回,本研究グループは従来より培ってきた独自の研究技術を使って幼少期に脳回ができる仕組みを探索し,Tbr2(※3)という遺伝子が脳回形成に重要であることを世界で初めて明らかにしました(図参照)。
本研究を発展させることにより,従来のマウスを用いた研究では解明が困難だったヒトに至る脳の進化の研究やさまざまな脳神経疾患の原因究明,治療法の開発に発展することが期待されます。
本研究成果は,平成28年 7月12日午後7時発行,米国ネイチャー出版グループのオンライン雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
なお,本成果の一部は,文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
※1 大脳皮質
大脳の表面を覆っている脳部位の名称。大脳皮質は,ほかの動物に比べてヒトで特に発達しており,高次脳機能に重要な部位と考えられています。
※2 脳回
大脳皮質の表面に見られるシワ(隆起)の名称。
※3 Tbr2
遺伝子の一つの名称。組織の発生や分化に重要な役割を担います。
図.本研究結果のまとめ
大脳皮質の断面図のイラスト。
左)大脳皮質の中でTbr2が多くある部分から,脳回の隆起が形成されます。
右)Tbr2の働きを抑制すると脳回の形成が抑制されたことから,Tbr2が脳回を作るために重要な遺伝子であることが明らかとなりました。