医薬保健研究域附属脳・肝インターフェースメディシン研究センターの太田嗣人准教授と医薬保健研究域医学系の長田直人助教の研究グループは,カゴメ株式会社と共同で,ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)に多く含まれる「スルフォラファン(※1)」に肥満を抑える効果があることを,マウスを用いた動物実験で明らかにしました。
ブロッコリースプラウトに多く含まれるスルフォラファンは,体内に取り込まれた化学物質の解毒や抗酸化力を高めることで,がんを予防する効果が知られています。一方,過食や肥満により酸化・還元のバランスが崩れると,さまざまな病気の発症に関与することが近年の研究からわかってきましたが,肥満に対するスルフォラファンの効果は明らかになっていませんでした。
今回の研究から,既に知られていたスルフォラファンの解毒・抗酸化作用に加えて,①脂肪細胞の褐色化(※2)を促進することでエネルギー消費を増大させ,肥満を抑制する作用,②高脂肪食による‘肥満型’腸内細菌叢(そう)を改善し,代謝性エンドトキシン血症(※3)を抑える作用,という新たな2つの作用を明らかにしました。これらの作用には,肝臓や脂肪組織の炎症,インスリン抵抗性(※4)を改善させ,生活習慣病の予防につながる波及効果が期待されます。
本研究の成果は,米国糖尿病学会誌「Diabetes」のオンライン版に日本時間2017年2月17日午前0時に掲載されました。
本研究で明らかになったスルフォラファンの新しいメカニズム
スルフォラファンには,①白色脂肪細胞(※5)の褐色化を促進しエネルギー消費を増大させ,肥満を抑制する作用,②肥満型腸内細菌叢を改善し,代謝性エンドトキシン血症を抑える作用,という2つの作用があることが新たに明らかとなり,その両者が,炎症やインスリン抵抗性を改善させるという生活習慣病の予防につながる波及効果がある。
【用語解説】
※1 スルフォラファン
ブロッコリーに含まれるフィトケミカルの一種。
※2 脂肪細胞の褐色化
近年,白色脂肪細胞(※5)が褐色脂肪細胞のような特徴を有する褐色様白色脂肪細胞(ベージュ脂肪細胞)になる「褐色化(browning)」という現象が明らかになり,肥満研究の分野で注目を集めています。
※3 代謝性エンドトキシン血症
高脂肪食により増加した腸内のグラム陰性細菌に由来する内毒素(LPS)が体内に移行し,その血中濃度が増加しすることで,脂肪組織や肝臓における慢性的な炎症を引き起こすこと。これが,全身性のインスリン抵抗性に寄与し,糖尿病などの生活習慣病の発症に関与していると考えられています。
※4 インスリン抵抗性
インスリンが体の中で効きにくい状態にあること。インスリンの作用によって糖が十分に体の中に取り込まれないため,血糖値が高くなり,糖尿病となります。インスリン抵抗性の原因としては,肥満,運動不足などがあります。
※5 白色脂肪組織
ヒトに多く存在するのは白色脂肪組織であり,脂肪細胞内に大量の中性脂肪を蓄えています。一般に“脂肪”と言えば白色脂肪組織を指します。一方,褐色脂肪組織は,ヒトでは肩甲骨の間や腋窩,首や心臓,腎臓の周囲など限定された部位に存在し,脂肪を分解し熱を産生することで体温を保持すると共に,エネルギーの消費に関与します。褐色脂肪組織は,その量が少ないと余分な脂肪が体内に蓄積されやすくなり,肥満やメタボリックシンドロームの原因となることが明らかにされています。