理工研究域自然システム学系の黒田浩介助教,髙橋憲司教授らの研究グループは,世界で最も低毒性な植物バイオマス(※1)の溶媒を開発しました。
現在,実用化されている第1世代バイオエタノールは,食物を原料とするため,その生産による将来的な食糧不足が懸念されています。そこで,植物由来の生物資源の主成分である多糖類「セルロース」を原料とする第2世代バイオエタノールの生産が求められています。しかし,第2世代バイオエタノールの生産に必要な「バイオマスの溶媒」は微生物に対する毒性が強く,溶媒を除去するのに大きなエネルギーを必要とするため,エタノールを作れば作るほどエネルギー収支がマイナスになるという大きな問題がありました。
今回,本研究グループは,新しいバイオマス溶媒「カルボン酸系双性イオン液体(※2)」を開発することで,セルロースを溶解しながら微生物への毒性を極限まで下げることに成功しました(図1)。これにより,高濃度の溶媒中で微生物を利用し,エタノール生産にかかるエネルギーコストを格段に下げることが可能になり,これまでエネルギー収支がマイナスとなっていた第2世代バイオエタノールの実用化に近づくことができました。
本研究成果は,2017年10月6日(米国東部時間)発行の米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載されました。
図1.本研究で開発したバイオマス溶媒「カルボン酸系双性イオン液体」
新たに開発したカルボン酸系双性イオン液体によって,バイオマスを溶解した後,加水分解と発酵をそのまま同じ容器内で連続的に行い,エタノールへ変換することを可能とした。
【用語解説】
※1 植物バイオマス
草や木など植物そのもの,あるいは古紙や割り箸などの植物由来のものすべて。再生可能な資源として注目されている。
※2 カルボン酸系双性イオン液体
今回新たに開発した,バイオマス(セルロース)を溶解し,微生物への毒性が低い溶媒。イオン液体との違いは,正電荷と負電荷が共有結合で結ばれていることである。双性イオン液体の報告自体は世界で2報目であるが,カルボン酸アニオンを持つ双性イオン液体の報告は世界で初めてである。
Journal of the American Chemical Society