金沢大学理工研究域数物科学系の有元誠助教は,早稲田大学,東京大学,理化学研究所と共同で,銀河中心から噴出するガンマ線バブルとX線で見られる巨大ループ構造が,ともに1000万年前に起きた大爆発の痕跡である証拠を突き止めました。
ほとんどの銀河の中心には巨大ブラックホールが潜んでおり,銀河系にも太陽の400万倍の質量を持つブラックホールが存在することが知られています。遠方には活動銀河(※1)やクェーサー(※2)など非常に活発で明るい銀河が存在しますが,銀河系や近傍銀河の多くは活動性を示さず,いわば「休火山」のような状態です。昔は銀河系も明るく輝いていたのか?いつ・どのように活動を止めたのか?この基本的な問いに答えることは,様々な銀河の形成と進化を探る上でも極めて重要です。
近年,フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡(※3)により,銀河中心から南北約50° に噴き出す巨大なガンマ線バブル(通称:フェルミ・バブル)が発見され,大きな話題を呼んでいます。一方で,電波やX線でも全天にまたがる巨大ループ構造が知られていますが,その大きさや形状から,太陽系近くの天体(超新星残骸)が偶然重なって見えているだけ,とする説が主流でした。
本共同研究グループは巨大ループがフェルミ・バブルを包み込む形状である点に着目し,2013年から5年にわたり,日本の「すざく」衛星や米国のスウィフト衛星を用いて全天140箇所のX線観測とデータ解析を系統的に行いました。これにより,この巨大ループ構造はフェルミ・バブル形成時の名残であり,一連の爆発で圧縮・加熱された高温ガス(銀河ハロー)であると結論し,いまは穏やかな銀河系も1000万年前には活発に爆発を繰り返し,激しい進化を遂げてきた様子が明らかになりました。
今後も,多様な銀河に残る痕跡を頼りにさまざまな解析を行うことにより,時間軸方向に進化をたどる新しい天文学の開拓につながる可能性があります。
本研究成果は,2018年7月25日(米国東部標準時間)に米国天文学会の運営する科学雑誌『Astrophysical Journal』に掲載されました。
図1.
(a)ガンマ線で観測した全天マップとガンマ線バブル
(b) X線で観測した全天マップと巨大ループ構造
図2. 本研究で得られた銀河中心巨大構造(フェルミ・バブルと巨大ループ)と太陽系の位置関係。
1000万年前の銀河中心大爆発でフェルミ・バブルが形成され,巻き上げられた高温ガスが圧縮・加熱されたものと考えられる。
【用語解説】
※1 活動銀河
銀河全体の約1割を占める特殊な銀河で、エネルギーの大半を銀河中心のコンパクトな領域(ブラックホール周辺)から放出し、激しい時間変動を特徴とする。。
※2 クェーサー
星のような点源の天体として観測され,明るさが数日から数十日のタイムスケールで変動することが知られている。スペクトルの観測結果から,非常に遠方に位置する明るい活動銀河だと考えられている。
※3 フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡
日米欧が協力して2008年に打ち上げたガンマ線観測用の天文衛星で,過去最高の感度で現在も宇宙を観測している。
・ 研究者情報:有元 誠