脳の神経情報ハイウェイの地図と進化を解明

掲載日:2018-12-12
研究

金沢大学医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授,医薬保健学総合研究科修士課程の齋藤健吾さんらの研究グループは,これまで解析が困難だった大脳の神経束の地図と進化を,フェレットを用いた独自技術を用いて世界に先駆けて明らかにしました。

脳の中でも,大脳(※1)の表面にある大脳皮質(※2)は高度な脳機能に重要であり,脳神経疾患や精神疾患などのさまざまな病気とも関連することから特に注目されている場所です。幼少期のヒトの大脳皮質付近には神経情報を伝達する神経束が2本存在し,高度な脳機能に重要だと考えられています。しかし,医学研究で用いられているマウスでは対応する神経束が見つかっていなかったことから,これらの神経束に関する研究はほとんどなく,神経束の構造や機能,進化についてはほとんど分かっていませんでした。

本研究グループは,マウスよりもさらにヒトに近い高度な脳を持つ動物の研究が,ヒトの脳機能を解明する上で今後重要になると考え,これまでフェレット(※3)を用いた研究を独自に進めてきました。その結果,フェレットの脳の構造や機能を研究するための独自の解析技術の開発に世界に先駆けて成功してきました。

今回,本研究グループは従来の研究をさらに発展させ,この独自の研究技術を使って,これまで解析が困難だった大脳の神経束の地図を調べた結果,2本の神経束はそれぞれ行き先が違うことを見つけました。この結果から,2本の神経束は違う働きを持つと考えられます。またフェレットとマウスとを比較した結果,マウスにも神経束の痕跡があることを発見しました。本発見は,ヒトの大脳がどのように進化してきたかという点の解明につながります。

本研究を発展させることにより,従来のマウスを用いた研究では解明が困難だった,ヒトに至る脳の進化の研究やさまざまな脳神経疾患の原因究明に発展することが期待されます。

本研究成果は,2018年12月12日(グリニッジ標準時間)に英国脳科学誌『Cerebral Cortex』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1.フェレットの大脳で見つけた2本の神経束

左)フェレットの脳の断面図。脳(青)の一部を,緑色蛍光タンパク質GFP(緑)で着色してある。大脳半球の一部(白四角)の部分を,拡大して右に示した。右)大脳半球の中に2本の神経束(緑の線の束)があることが分かった。

 

 

図2.フェレットの大脳の2本の神経束の行き先の違い

大脳半球の表面側の神経束(緑,矢印)は近隣の大脳半球が行き先であり,深部側の神経束(緑,矢頭)は遠方の大脳半球が行き先であるように,2本の神経束で行き先が違うことが分かった。
 

 

 

図3.マウスでの神経束の痕跡

マウスの大脳半球の断面の拡大図。図1および図2と同じ方法をマウスに用いて,脳(青)の一部を,緑色蛍光タンパク質GFP(緑)で着色してある。深部側の神経束(緑,矢頭)に加え,表面側に少数の神経情報の経路(緑,矢印)が見られた。フェレットでは,この表面側の経路が拡張されて,表面側の神経束ができたと推測される。
 

 

 

 

【用語解説】
※1 大脳
脳の大部分を占める左右一対の塊。頭蓋骨の直下にある。

※2 大脳皮質
大脳の表面を覆っている脳部位の名称。大脳皮質は,他の動物に比べてヒトで特に発達しており,高次脳機能に重要な部位と考えられている。大脳皮質のダメージは,さまざまな脳神経疾患や精神疾患につながると考えられており,脳の中では最も注目されている部位の一つ。

※3 フェレット
イタチに近縁の高等哺乳動物であり,マウスに比べて脳が発達していることが特徴。

 

詳しくはこちら

Cerebral Cortex

・ 研究者情報:河﨑 洋志

 

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