世界初! 経頭蓋直流刺激による注意機能の改善にドパミン系神経伝達が関わることを解明

掲載日:2019-3-26
研究

金沢大学附属病院神経科精神科の深井美奈助教,子どものこころの発達研究センターの菊知充教授,浜松医科大学生体機能イメージング研究室の武内智康特任助教,尾内康臣教授らの共同研究グループは,陽電子放出断層撮影(Positron emission topography,PET)(※1)を用いて,健常成人男性において経頭蓋直流刺激(Transcranial direct-current stimulation,tDCS)(※2)による注意機能の改善にドパミン系神経伝達(※3)が関わることを世界で初めて明らかにしました。

近年になり,tDCSにより注意機能や遂行機能が強化されること,tDCSにより脳内ドパミンが放出されることはそれぞれ分かってきていましたが,これらの関係性は解明されていませんでした。

本研究グループは,20人の健常成人男性を対象に,背外側前頭前野(Dorsolateral Prefrontal Cortex,DLPFC)へのtDCS後およびtDCSによる刺激とは異なる刺激を与えた比較実験として生理的な意味のない刺激を与えるsham刺激後に,PETによって脳内のドパミン放出を, 心理機能検査(Cambridge Neuropsychological Test Automated Batery,CANTAB)という評価尺度によって注意機能と遂行機能の変化を,それぞれ評価しました。その結果,tDCSにより右の腹側線条体でドパミンが放出されることがPETにより確認できました。また,tDCSにより注意機能と遂行機能が強化されることが確認されました。興味深いことに,PETによる右の腹側線条体でのドパミン放出が多いほど,注意機能も大きく強化されることが分かりました。一方,遂行機能の強化とドパミン放出にはこうした関連性は認められませんでした。このことは,tDCSによる注意機能の強化はドパミンの放出により起こっている可能性を示唆しています。

本研究はtDCSの注意機能が強化される生理学的な機序を明らかにしたという点で極めて画期的です。今後,脳内ドパミン伝達が減弱することで注意機能が低下する疾患として知られる注意欠陥多動性障害(ADHD)への臨床応用が期待されます。

本研究成果は,2019年3月15日(英国時間)に英国科学誌『Translational Psychiatry』のオンライン版に掲載されました。
 

 

 

 

図.

左)脳を水平に切断した断面の一つ,中央)体を腹側と背側に分割する方向に切断した断面の一つ,右)正中に対し平行に分け断面の一つ。
カラーバーはドパミン放出の程度を示し,色が赤に近い程ドパミンが多く放出されていることを示す。青く強調されている部分がドパミンの放出が観測された部位であり,右の腹側線条体に一致する領域である。

 

 

 

【用語解説】

※1 陽電子放出断層撮影(Positron emission topography,PET)
放射能を含む薬剤を用いる,核医学検査の一種。放射性薬剤を体内に投与し,その分布の継時的変化を特殊なカメラで捉えて画像化する。

※2 経頭蓋直流刺激(Transcranial direct-current stimulation,tDCS)
頭蓋骨の上から極めて微弱な直流電気を流して脳を刺激する方法で,ヒトではうつ症状の改善,運動機能障害のリハビリテーション,記憶力の向上などへの効果が知られている。しかし,その詳しい作用メカニズムは解明されていない。

※3 ドパミン系神経伝達
ドパミンは,中枢神経系に存在する神経伝達物質で,運動調節,ホルモン調節,快の感情,意欲,学習などに関わることが知られている。

 

 

詳しくはこちら

Translational Psychiatry

・ 研究者情報:深井 美奈

・ 研究者情報:菊池 充

 

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