金沢大学新学術創成研究機構の佐藤純教授,インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)のJose A. Carrillo(ホセA.カリーロ)教授,東京工業大学生命理工学院の鈴木崇之准教授,龍谷大学理工学部の村川秀樹准教授らの共同研究グループは,脳の解析モデルとされるショウジョウバエの脳とコンピューターシミュレーションを組み合わせて,細胞接着力の差分が脳のカラム形成において中心的な働きをすることを示しました。
私たちの脳は無数の神経細胞から成りますが,神経細胞は無秩序に配置されているわけではなく,多数の神経細胞が規則正しく集まったカラム構造を示します。カラム構造はコンピューターにおけるICチップのようなもので,脳の機能単位として働き,脳の機能を実現する上で重要な役割を果たします。しかし,その形成機構はほとんど分かっていませんでした。
また,多数の細胞が集まって何かの構造を作る時に,細胞間の接着が重要であると言われており,細胞ごとの接着力の差が私たちの体を形作る上で重要であると言われていました。しかし,細胞接着力の違いによる効果は培養細胞においては研究が進んでいますが,生体内における働きは明らかにされていませんでした。
本研究グループは,哺乳類の脳と同様にカラム構造を示すショウジョウバエの脳を用いた実験により,カラム形成において中心的な働きをする神経細胞がR7,R8,Mi1の 3種類の神経細胞であることを特定し,これら神経細胞間の接着力の差がカラムの基本的な構造を決定することを明らかにしました。
神経細胞同士の接着はNカドヘリンと呼ばれる細胞接着分子の1つであるタンパク質によって制御されますが,その働きはヒトを含めたあらゆる動物において共通していることから,本研究成果はヒトの脳の形成機構の解明,細胞接着制御を応用した神経疾患の治療や再生医療研究への応用が期待されます。
本研究成果は,2019年6月7日(米国東海岸標準時間)に米国科学誌『The Journal of Neuroscience』のオンライン版にEarly Releaseとして掲載されました。
図. Nカドヘリンによるカラム構造の可視化と細胞接着力の差による神経細胞の分布変化
a. Nカドヘリンの局在によるドーナツ状のカラム構造の可視化。
b. カラム構造を構成する3種類の神経細胞の分布。幼虫の時期から形成し始めるカラム構造において,最初はR7がカラムの中心に点状に配置し,R8がその外側にドーナツ状に,Mi1がさらにその外側に網目状に配置される。Nカドヘリンによる細胞接着力は,R7が最も強く(+++),R8が中程度で(++),Mi1が最も弱い(+)。
c~f. 人工的にNカドヘリンの産生量を操作した際の3種類の神経細胞の位置の変化。
研究者情報:佐藤 純