岐阜薬科大学の檜井栄一教授(研究当時:金沢大学医薬保健研究域薬学系・准教授)らの研究グループは,金沢大学の金田勝幸教授,小川数馬准教授,東京医科歯科大学の越智広樹助教,佐藤信吾講師,松本歯科大学の小林泰浩教授,米国国立衛生研究所のYun-Bo Shi(ユンボシ)上席研究員,英国ダンディー大学のPeter M. Taylor(ピーターテイラー)教授らとの共同研究により,健康な骨の維持に重要なシグナルと新しい分子メカニズムを発見しました。
私たちのからだを構成している細胞は,アミノ酸を栄養源やタンパク質の原料として利用しています。細胞は,アミノ酸を自身で合成するだけではなく,細胞膜上に存在するアミノ酸トランスポーター(※1)を用いて細胞外からも取り入れています。これまでに,アミノ酸トランスポーターの異常が,がんや神経変性疾患,糖尿病等のさまざまな疾患の発症に関与することが知られています。しかしながら,アミノ酸トランスポーターを介した栄養環境シグナルが,どのように骨代謝に関与しているかについて,詳細は明らかになっていませんでした。
本研究グループは,マウスの骨芽細胞と破骨細胞を用いた実験により,アミノ酸トランスポーターの一種であるL-type amino acid transporter 1(LAT1)(※2)というタンパク質が,健康な骨の維持に重要な役割を果たしていることを発見し,その詳細な分子メカニズムを明らかにしました。
本成果は,骨が健康な状態で維持される仕組みについて,新しい知見や概念を提供します。さらに骨代謝異常や,骨組織の恒常性維持の破綻によって引き起こされるさまざまな運動器疾患や骨系統疾患に対する新しい知見と解決法を提供するものであり,アンメット・メディカル・ニーズ(※3)の解消にも貢献することが期待されます。
本研究成果は,2019年7月9日(米国東海岸標準時間)に米国学術雑誌『Science Signaling』のオンライン版に掲載されました。また,同日発行の本誌の表紙(Supplementary Cover)に採用されています。
図1. 成体マウス大腿骨の画像
破骨細胞特異的なLAT1不活性化マウスの大腿骨では,コントロールマウスの大腿骨に比べ,骨量が少ないことが分かる。
図2. LAT1による骨代謝維持の分子メカニズム
骨吸収の働きを持つ破骨細胞におけるLAT1が,細胞の成長や増殖,生存,分化などのさまざまな機能を調整するmTORC1シグナルを活性化し,破骨細胞分化に必須の転写因子であるNFATc1の発現量および細胞核内への移行を制御することにより,骨代謝が維持される。
【用語解説】
※1 アミノ酸トランスポーター
細胞膜上に存在するタンパク質の一種。細胞内外のアミノ酸を輸送する働きを持つ。
※2 L-type amino acid transporter 1 (LAT1)
LATと呼ばれるアミノ酸トランスポーターのグループの一つ。LAT遺伝子の一番目。
※3 アンメット・メディカル・ニーズ
未だ有効な治療方法が確立されていない疾病に対する医療への要望。
研究者情報:金田 勝幸
研究者情報:小川 数馬