宇宙の電磁波の「さえずり」がオーロラの「またたき」を制御
-北極域での高速オーロラ観測と科学衛星「あらせ」による国際協調観測-

掲載日:2020-3-5
研究

金沢大学理工研究域電子情報通信学系の尾崎光紀准教授,総合メディア基盤センターの笠原禎也教授および理工研究域電子情報通信学系の八木谷聡教授と,電気通信大学,名古屋大学,国立極地研究所,情報・システム研究機構,東北大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの国際共同研究グループは,北欧とアラスカに設置された高速オーロラカメラとJAXAの科学衛星「あらせ」による協調観測を実施し,宇宙空間で発生するコーラス波動の秒以下で起こる変化(宇宙の電磁波の「さえずり」)に呼応して,地上から観測されたオーロラの秒以下の脈動(オーロラの「またたき」)が変動することを初めて実証しました。

地球周辺の宇宙空間「ジオスペース(※1)」にある高エネルギー電子は,人工衛星の障害を引き起こすなど宇宙空間での活動に影響を及ぼします。また,最近の研究により,これらの高エネルギー電子は地球大気の奥深くまで進入し,オゾン層を部分的に破壊する可能性があることも分かってきています。そのため,ジオスペースにおける高エネルギー電子の振る舞いを知ることや予測することが求められています。

本研究グループは,ジオスペースの高エネルギー電子の増加に関係していると考えられているコーラス波動(※2)およびコーラス波動と類似の階層的周期構造を持つ脈動オーロラ(※3)について,北欧・アラスカの6箇所に設置された地上からの高速オーロラカメラによるオーロラ撮像と科学衛星「あらせ」による観測を組み合わせることで,脈動オーロラの「またたき」とコーラス波動の「さえずり」の間の対応関係を検証しました。その結果,コーラス波動における「さえずり」の有無によって,脈動オーロラの「またたき」の存在が決定付けられることを明らかにしました。

本研究成果は,オーロラの多様な形態が宇宙空間の電磁波の変動により制御されていることを強く示唆しており,地上からのオーロラ観測によって宇宙空間のコーラス波動の二次元分布を推測することが可能となります。これにより,安全かつ安定した宇宙活動への貢献が期待されます。

本研究成果は,2020年2月25日(英国時間)に国際科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。


 

図1.

(左)赤線は数秒から数十秒のペースで明滅する脈動オーロラの「主脈動」を表す。青線は主脈動の内部に存在する1秒間に3回程度明滅する内部変調「またたき」を示す。(右)赤線は,コーラス波動が集団的に発生する様子(コーラスバースト)を示す。このコーラス波動の時間変化が脈動オーロラの主脈動をコントロールしていることが,近年の科学衛星「あらせ」による観測によって示されている。青線は,「コーラスエレメント」と呼ばれるコーラス波動の「さえずり」である。

 

 

図2.

(左)コーラス波動に「さえずり」がない場合には,大気へ落ちている電子の量にも秒以下の時間変化がなく,脈動オーロラに「またたき」がない。(右)コーラス波動にエレメントが見られる場合は,大気へ降下する電子の量に秒以下の変動が生じ,それが脈動オーロラの「またたき」を作り出している。本研究では,この2つのケースを比較することで,コーラスの鳴き方(「さえずり」の有無)がオーロラのまたたきを制御していることを示した。

 

 

【用語解説】
※1 ジオスペース
数多くの人工衛星が飛翔する地球近傍の宇宙空間のこと。太陽の活動(主として太陽から来るプラズマの風である太陽風)の影響を受けてその環境が乱れ,人工衛星の運用や宇宙通信環境に影響を与えることが知られている。本研究において科学衛星「あらせ」が探査したジオスペースの領域は,地球中心から地球半径の6~7倍程度離れた領域となっている。

※2 コーラス波動
電子が磁力線に沿って,らせん状に運動することによって生じる電磁波。ジオスペースの朝側の領域において高い頻度で発生する。電磁波の強度を音声に変換すると,鳥が「さえずる」ように聞こえるために,“コーラス” 波動と呼ばれている。

※3 脈動オーロラ
形があいまいなディフューズオーロラの一種で,明るさが準周期的に変動するオーロラ。その明るさの変化には,数秒から数十秒のビートで明滅する「主脈動」と,1秒間に3回くらいの「内部変調(またたき)」が重なり合う “階層的周期構造” が存在する。

 

 

詳しくはこちら

Scientific Reports

研究者情報:尾崎 光紀

研究者情報:笠原 禎也

研究者情報:八木谷 聡

 

 

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