有機ホウ素化合物と光エネルギーを活用した新しい有機合成技術を開発

掲載日:2020-5-20
研究

金沢大学医薬保健研究域薬学系の大宮寛久教授,隅田有人助教,大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻博士前期課程2年の佐藤由季也さん,医薬保健学域薬学類5年の中村渓さんの研究グループは,東京医科歯科大学生体材料工学研究所/理化学研究所生命機能科学研究センターの細谷孝充教授/チームリーダー,理化学研究所創発物性科学研究センターの橋爪大輔チームリーダーと共同で,さまざまな測定技術を駆使しながら可視光(※1)を吸収できるように設計した有機ホウ素化合物(※2)に光照射することで,高い反応性を持つ化学種である炭素ラジカル(※3)を発生させることに成功しました。

有機合成反応に利用可能なアルキル(※4)ラジカルに代表される炭素ラジカルを有機化合物から効率良く発生させることができれば,さまざまな分子合成が可能となります。しかし,有機化合物から炭素ラジカルを発生させる従来の手法は,高価な光触媒(※5)が必要であることや,発生可能な炭素ラジカルに制限があることなどの課題がありました。

本研究では,ホウ素原子が環状分子骨格に埋め込まれた「ボラセン」から調製される有機ホウ素アート錯体(※6)を独自に設計・合成しました。有機ホウ素アート錯体と可視光により発生させた炭素ラジカルは,化学反応の炭素源として活用でき,これまで到達困難とされていた複雑かつかさ高い有機化合物などをつくり出すことができます。有機化合物を高価な光触媒を用いることなく,可視光により直接励起(※7)し,直鎖および分岐鎖の炭素ラジカルを発生させた世界初の例です。

本研究成果は,有機ホウ素化合物と光エネルギーを組み合わせることで可能となる新しい有機合成技術を提供したといえ,創薬研究などをより一層加速させるものと期待されます。

本研究成果は,2020年5月12日(米国東部標準時間)に米国化学会誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン版に掲載されました。

 

図1.研究概要

 

図2. 従来法と本手法の比較

 

【用語解説】

※1 可視光
 人間の眼が感知できる光。波長域は約380~780 ナノメートル(nm)。

※2 有機ホウ素化合物
 炭素−ホウ素結合を有する有機物。

※3 ラジカル
 不対電子を有する化学種。

※4 アルキル
 アルカンから水素原子を1つ取り除いた基。CnH2n+1 で表される。

※5 光触媒
 光(ここでは可視光)を吸収することで電子あるいはエネルギー移動が行える触媒。

※6 有機ホウ素アート錯体
 ホウ素中心に不電荷を帯びている4つの結合を持つ有機ホウ素化合物。

※7 励起
 外部からエネルギー(ここでは光)を受けて,高いエネルギー状態になること。

 

詳しくはこちら

Journal of the American Chemical Society

研究者情報:大宮 寛久 

研究者情報:隅田 有人

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