電子反応を制御する有機触媒~創薬研究につながる複雑かつ嵩高い分子をつくり出す~

掲載日:2020-7-29
研究

金沢大学医薬保健研究域薬学系の大宮寛久教授,長尾一哲助教,医薬保健学域薬学類6年の掛布優樹さんおよび4年の日下部真優さんの研究グループは,一電子(※1)が介在する電子反応を能動的に制御する有機触媒(※2)を開発し,これまで到達困難とされてきた,複雑かつ嵩高い有機分子の合成につなげました。

金属元素を含まず,有機化合物のみで構成される有機触媒は,環境調和・省資源・省エネルギーを目指す現代社会のニーズに応える次世代触媒として注目を浴びています。しかし,高い活性を持つ一電子が介在する電子反応を有機触媒によって制御することは困難です。したがって,有機触媒の電子反応からつくり出すことができる分子は限られており,創薬研究などに応用するには不十分でした。

本研究グループは,新たな有機触媒として,窒素上にネオペンチル基が置換したチアゾリウム型含窒素複素環カルベン(※3)触媒を合理的かつ精密にデザインし,この触媒を用いることで,電子反応を能動的に制御することに成功しました。これまで適用困難であった脂肪族アルデヒド(※4)と脂肪族カルボン酸(※5)誘導体を出発原料として用いて,生体関連分子に数多く見られる複雑かつ嵩高いジアルキルケトン(※6)を35種類以上つくり出すことができます。

本研究成果は,電子反応を制御する有機触媒という新しい有機合成技術を提供し,これまで到達困難であった高付加価値有機分子をつくり出したことから,創薬研究などをより一層加速させるものと期待されます。

本研究成果は,2020年7月21日12時(米国東部標準時)に米国化学会発行『ACS Catalysis』のオンライン版に掲載されました。

 

 

図1. 概要図:電子反応の能動的制御

 

図2. 電子反応を制御できる有機触媒のデザイン

 

図3. ジアルキルケトンが骨格に組み込まれた医薬品や天然物の合成

 

【用語解説】

※1 電子
原子を構成する負電荷を持つ粒子。

※2 有機触媒
化学反応の際にそれ自身は変化せず,反応を進みやすくする触媒のうち,金属元素を含まず,炭素・水素・酸素・窒素・硫黄などの元素から成る,触媒作用を持つ低分子化合物。

※3 カルベン
炭素周りに6電子しか持たない二価化学種。

※4 アルデヒド
水素と結合した炭素と酸素の間に二重結合を持つカルボニル。天然などに見られ,容易に入手可能な有機化合物。

※5 カルボン酸
カルボキシル基(-COOH)を有する有機化合物 。

※6 ケトン
炭素と酸素の間に二重結合を持つカルボニル。身近な例として除光液として用いられるアセトンが挙げられる。

 

詳しくはこちら

ACS Catalysis

研究者情報:大宮 寛久 

研究者情報:長尾 一哲

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