金沢大学医薬保健研究域医学系の酒井佳夫准教授らの研究グループは,膵癌肝転移マウスモデルを用いて,膵臓がん治療のために,ゲムシタビンと抗PD-1抗体の化学療法,免疫療法を併用することの有効性を明らかにしました。
膵臓がんは,日本で毎年4万人以上が罹患するとされる,患者数が多いがんの1つです。膵臓は臓器の中でも最も背側に存在しているため,他の部位のがんと比べて早期の発見が難しく,たとえ治療を受けても5年後に生存している割合は10%程度という調査結果もあり,もっとも予後の悪い悪性腫瘍の1つであると言われています。
本研究では,その効果的な治療法の確立を目的として,膵臓がんが肝臓に転移したマウスを用いて,抗がん剤のゲムシタビンと抗PD-1抗体(※1)と呼ばれるタンパク質の併用の効果を調査しました。その結果,併用によって,Th1リンパ球とM1マクロファージ(※2)の浸潤が促進され,マウスの生存期間の延長が確認されました。
本研究の成果は,ゲムシタビンと抗PD-1抗体を併用した化学療法が肝転移のある膵臓がんの治療に有効である可能性を示唆しているものです。今後は,治療の有効性に寄与している因子などの研究をより推進し,将来的には,生体の免疫能力をさらに活用した,化学療法や放射線療法などの集学的な治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は,2020年11月13日に国際学術誌『Journal for Immunotherapy of Cancer』のオンライン版に掲載されました。
図1
膵癌肝転移組織にみられたゲムシタビンと抗PD-1抗体の併用療法により誘導される免疫反応。
図2
解明したゲムシタビンと抗PD-1抗体による抗腫瘍効果機序の概要。膵癌肝転移マウスモデルに対するゲムシタビンと抗PD-1抗体の併用治療は,がん組織においてCD4+ Th1リンパ球とM1型マクロファージを媒介した免疫応答を誘導し,さらに細胞傷害性CD8+T細胞の活性増強を促す。
※1 ゲムシタビンと抗PD-1抗体
ゲムシタビンは,DNA合成を阻害する抗がん剤である。膵臓がんに対する抗がん剤として2006年に我が国で承認された。抗PD-1抗体は,免疫チェックポイント分子PD-1を標的とする抗体であり,免疫応答を賦活化する。
※2 Th1リンパ球とM1マクロファージ
Th1リンパ球は,抗がん作用に働く液性因子を分泌するヘルパーT細胞である。一方,マクロファージの一種であるM1マクロファージは,がんに対して抑制的に機能する一分画である。
Journal for Immunotherapy of Cancer
研究者情報:酒井 佳夫