金沢大学医薬保健研究域医学系の八木真太郎教授らの研究グループは,三鷹光器株式会社,パナソニックi-PROセンシングソリューションズ株式会社との共同研究で「手術用の高精細(4K)3Dビデオ蛍光顕微鏡(HawkSight)」を開発してきましたが,本機器を使った新しい手術法の有用性をブタモデルで検証し世界に提唱しました。
従来の外科手術は,細かいところは外科用ルーペを使って術野をのぞき込んで,またさらに細かい手術は顕微鏡を使って手術を行っています。長時間のこれらの手術は,前者では,首や腕のしびれの原因,後者では眼精疲労や肩こりなどとの原因となっていました。また,助手が術者と同じ視野を共有できず,技術伝承に課題を残していました。開発した装置は,上記グループとの産学連携研究としてAMEDの支援を受けて開発され,2019年にHawkSight(鷹の眼)の商品名で臨床使用可能となりました。高性能レンズを搭載し,手術部位を遠方からのズームにより双眼3Dの4Kモニター上に映し出す仕様です(図1,2)。従来の光学顕微鏡では高倍率時の焦点深度が浅くなりピントが合いにくいという問題がありましたが,本装置はこの現象を防ぐために遠隔からズームする画期的装置として完成しました。さらに血液の流れや腫瘍(がん)を蛍光画像としてリアルタイムにモニターに重ねて表示することもできるため,腫瘍の位置や手術の出来具合を確認しながら,より安全に手術を行うことができます。そして外科手術概念で最も画期的な点は,術者と助手が同一モニターを見ながら楽な姿勢で手術ができ,倍率を速やかに調整できるため,様々な領域の手術に対応可能であることに加え,教育にも有用と考えられる点です。
八木教授は,小林英司特任教授(現:東京慈恵会医科大学)と金沢大学を含め全国の若手外科医を対象に国際実験マイクロサージャリー学会(ISEM)日本支部を組織し,開発した新型ビデオ顕微鏡の有用性を検証してきました。さらに文部科学省課題解決型高度医療人材養成プログラム「国内初の,肝臓移植を担う高度医療人養成(六大学連携プログラム:SNUC-LT)」の活動を通して,京都大学,金沢大学外科分野のメンバーとともに,今回開発した機器を使ってブタ肝移植モデルを用いて新しい手術スタイルの有用性を検証してきました。
これらの検証の結果,肉眼レベルから顕微鏡レベルまで境目なく超高画質の画面を見ながら行う新しい手術法の有用性が示されました。
本研究成果は,2021年5月12日に国際学術誌『PLOS ONE』のオンライン版に掲載されました。
図1
「現在」は従来の顕微鏡を用いた手術方法。「今後」はマイクロ・マクロ ボーダレス手術(MMBS)を用いたヘッドアップ(頭を上げた状態)で行う手術。
図2. MMBSの手術風景