金沢大学人間社会研究域学校教育系/子どものこころの発達研究センターの吉村優子准教授,医薬保健研究域医学系の菊知充教授,附属病院の三谷裕介講師,子どものこころの発達研究センターの池田尊司助教と北海道大学,秋田大学,東邦大学医療センター大森病院,聖路加国際大学,日本赤十字社医療センター,市立札幌病院らの共同研究グループは,睡眠パターンの基礎が形成される1歳半の早産児101名(男児44名,女児57名)を対象に,睡眠と知的発達の関係を調べました。2013年から2020年の間に出生した36週未満かつ1500g未満の児を対象にアクチグラフ(睡眠計)を1週間継続して装着し解析を行いました。発達評価には心理士による新版K式発達検査(※)を用いました。
その結果,起床時刻のばらつきが小さいほど発達指数が高いことがわかりました。睡眠制御のシステムが正常に機能していると寝起きの時刻が安定することが知られています。これまで覚醒制御の中心は脳幹・視床下部などに存在することが知られていましたが,今回の研究では「知的発達が良好な児(=大脳が成熟した児)」において「起床リズムが一定(=睡眠制御機能が成熟)である」ことから,発達過程において大脳も睡眠を制御する可能性が示唆されました。
これまで,乳幼児の睡眠と知的発達の関係について調べた研究は少なく,統一した見解は得られていません。また,睡眠,発達についての評価は保護者へのアンケート調査による研究が多数ですが,アンケート調査では主観的な評価になる傾向があります。
今回の研究では睡眠計と新版K式発達検査を用いて,早産児を対象に乳幼児の睡眠特性と発達の関係を客観的に確認しました。今後も睡眠発達のメカニズムについて検討を続け,乳幼児の発達をサポートする睡眠環境を明らかにしたいと考えています。
本研究成果は2021年8月5日に科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。
【用語解説】
※ 新版K式発達検査
子どもがとる行動や反応を同年齢と比較して,発達の度合いが実際の年齢よりどのくらい差があるかを「姿勢・運動」,「認知・適応」,「言語・社会」の3領域で評価する検査のこと。
研究者情報:吉村 優子