金沢大学附属病院神経科精神科の佐野滋彦助教,医薬保健研究域医学系精神行動科学の菊知充教授,子どものこころの発達研究センターらの共同研究グループは,自閉スペクトラム症 (※1) を持つ児童たちの心理検査・知能検査のデータを解析し,3歳から8歳の知的能力に重度な遅れのない,自閉スペクトラム症を持つ児童において,共同注意 (※2) というコミュニケーション能力の異常が大きいほど,知能が低くなることを報告しました。
知的能力に重度の障害を持つ自閉スペクトラム症児においては,共同注意の異常と知能に関連があることは,過去の研究で示されていましたが,知的能力に重度の障害を持たない自閉スペクトラム症児においてもその関連があるかは不明でした。本研究グループでは,知的能力に重度の障害を持たない自閉スペクトラム症児を対象に,解析を行いました。その結果,これらの児童においても両者の間に統計学的に有意な関連がみられました(図1)。
これらの知見は将来,自閉スペクトラム症を持つ児童の知的能力を高め,彼ら彼女らの学校や社会への適応能力を改善するための治療に活用されることが期待されます。
本研究成果は,2021年8月23日に米国の医学雑誌『Autism Research』のオンライン版に掲載されました。
図1 共同注意の異常と知能の関連
【用語解説】
※1 自閉スペクトラム症
社会的相互作用,社会的コミュニケーション,想像力などの面で通常のヒトと異なった発達を示す,神経発達症の一つ。自閉スペクトラム症を持つ人の多くが知的能力にも障害を持っており,その原因のひとつとして,コミュニケーションの異常が知的能力の発達を妨げている可能性が考えられている。
※2 共同注意
ヒトにおいて生後半年からみられる,他者とコミュニケーションするための能力の一つ。子どもが自分の気になるものを指さして,お母さんにも見てもらおうとするなどの行動で表される。自閉スペクトラム症を持つ児童においては,こうした行動の出現する年齢が遅かったり,出現する頻度が小さいなどの異常がみられる。
研究者情報:佐野 滋彦
研究者情報:菊知 充