Aspiration#06 若子 倫菜「本質を見極める」

作り手と使い手の“心”も満足させるモノづくり

金沢大学理工研究域機械工学系
准教授 若子 倫菜

人が感じていることを数値化 ~感性の共通言語化~

「人が感じていることを数値で表したい」と幼い頃から考えていたという若子准教授。製品の好き嫌いや機能の良し悪し以外に、使用した人が、その製品を「良い」と判断する基準は何か。人の感覚や感情を数値に変換し、それらをもとに、心(感性)も満足できる製品を設計するための学問。それが若子准教授が取り組む、“感性工学”である。人が本当に良いと感じる製品とは何か?また、より良い製品を生み出すには、何をどのように改善すれば良いのだろうか?科学技術が高度に発展した現在でも、人の感覚や好みを直接測定し、可視化することは難しい。若子准教授は、製品の良し悪しを定める「感性」を数値化すること、そしてそれを、人が本当に満足できるモノづくりのための共通言語として活用することを目指している。

感性工学 ~官能評価~

「感性工学」はKansei Engineeringと英訳され、実は日本で生まれ、世界へ伝わった学問。製品の使い心地など、人が感じること(感性)を、生理反応の計測やアンケート調査により数値化し評価する。そしてその評価結果をモノづくりにフィードバックして、活用する学問である。感性の評価に用いられる手法の1つに「官能評価」がある。これは、人の五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を使って、製品の特性や感覚そのものを測定する方法である。特に、感性工学における官能評価では、与えられたモノを見る(外観)、聴く(音)、触る(触り心地)などして、評価者に言葉や数字で設問に答えてもらう。評価者の判断は、少しの外乱要因にも影響を受けるため、若子准教授は、評価者に心理的ストレスを感じさせない環境整備に細心の注意を払う。また、評価項目の選定も重要である。例えば、「高級感」というコンセプトの製品に対して、「見た目」、「触り心地」などのうち、どの評価項目が高級感をうまく表してしているのかを調べることは難しいという。若子准教授が現在学生とともに挑戦しているテーマの一つが、“ファスナーのしゅう動性”と高級感の関係。研究当初は予想しなかった、触覚だけでも高級感を感じることができる、という興味深い成果を得ている。若子准教授の研究対象は、製品の「美しさ」にも広がる。ストッキングの「透明感」、「立体感」、「表面粗さ感」が美しさの重要な要素であることが明らかになったと語る。

“心”も満足できるモノづくりを目指す

「本当に良い製品」とは、使い手も作り手も、機能面の満足だけでなく、心も満足できる製品であると若子准教授は考える。その『志』は、「本質を見極める」という思いである。「機能を向上させるだけの設計で終わらせるのではなく、人が感じていること、すなわち「感性」を取り入れたモノづくりを発展させたい」と語る。使う人の心を豊かにする“本当に良いモノ”を生み出すKansei Engineering、若子准教授の今後の研究に注目したい。

 

(サイエンスライター・見寺 祐子)

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