アレルギー免疫疾患の新たな予防法、治療法の開発を目指して
生体の免疫応答の複雑さに魅力を感じて
長田夕佳助教が「アレルギー免疫疾患」に初めて興味を持ったのは、大学で免疫学の講義を受けた時。さまざまな外来刺激(アレルゲン)に対する生体の免疫応答の「複雑さ」に魅力を感じた。卒業研究ではさらに「食品とアレルギーの関係」というテーマに取り組んだ。自身がアレルギーに悩まされていたこともあり、同じ悩みを持つ人を基礎研究の立場から救いたい、という思いが自らの大学院進学を決断させた。以来、金沢大学薬学系助教となった現在に至るまで、アレルギーの基礎現象の解明に一貫して取り組んでいる。研究を進めるなかで、アレルギー免疫疾患のメカニズムの複雑さや難しさ、新たな課題が分かり、より一層興味が深まったと長田助教は語る。
アレルゲン免疫療法とは
アレルギー免疫疾患とは、免疫の過剰反応によって引き起こされる病気であり、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどが含まれる。その治療法は大きく分けて、症状や炎症に対して治療薬を使う「対症療法」と、体質そのものを変える「アレルゲン免疫療法」がある。このうちアレルゲン免疫療法は、原因物質(アレルゲン)を継続して少量ずつ摂取することで体質を改善する治療法であり、アレルギー免疫疾患に対する唯一の根治的治療ともいわれている。しかし、治療に長い期間を必要とし、またアレルゲンの過剰投与による重い副作用(アナフィラキシー)が現れる可能性など、安全性や有効性にはまだ多くの課題がある。長田助教が取り組むのは、アレルギーの免疫学的メカニズムを解明することで、より安全なアレルゲン免疫療法を実現すること。特に、細胞を用いた基礎研究だけでなく、モデルマウスを用いた実験を組み合わせることで、臨床応用を常に視野に入れながら研究を行う。実験動物を高度に取り扱う「実験動物一級技術者」の資格も取得した。特定のアレルギー免疫疾患のモデルマウスを作成し、分子レベルで明らかになった研究を臨床応用につなげ、アレルギー免疫疾患で困っている人たちの助けになりたいと語る。
基礎研究の立場からアレルギー免疫疾患をもつ人の役に立ちたい
コツコツと集中し、実験を進める過程は、つい時間を忘れて没頭してしまう。また、実験を終え、発表のために研究をまとめる作業も好きだと長田助教は笑顔で話す。
アレルギー免疫疾患は、生活環境の近代化に伴って、世界で増加している身近な病気である。老若男女問わず発症する可能性があるが、その発症メカニズムは完全には明らかになっていない。しかし長田助教は「分かっていないことが多いからこそ、それが研究するモチベーション」となる、と語る。その志は「アレルギー免疫疾患の複雑なメカニズムを明らかにすること」である。「自分ができる実験を進め、自分の関心を突き詰めることで、社会に還元できる研究が理想」と話す。多くの人々が苦しむアレルギー免疫疾患のより安全な根治的治療の実現に向け、長田助教の今後の研究に注目したい。
(サイエンスライター・見寺 祐子)