「“学び”を一緒に楽しむ」 ―いまできることから次の一歩を踏み出すために―
高校では何を教えるべきか、高校生は何を学ぶべきか
きっかけは自身の高校進学時、「これから高校で学ぶことが将来どのようにつながり、自分にどんな可能性をもたらすのだろう?」という素朴な疑問が、本所 恵准教授を「教育方法学」の研究者の道へと導いた。大学では教育学を専攻した。そこで、日本と海外の高校教育の違いに驚き、また大きな興味を持った。なかでも、本所先生が特に関心を持ったのは、スウェーデンの高校教育である。同国では、ほぼすべての若者が進学する高校に、多様な専門教育が用意されており、成績のみでなく将来の進路を考えて入学時に教育を選択することが重視されていた。同時に、高校入学時の選択が将来を決定づけることがないように、成人してからも学び直せる制度が整えられていた。また、社会経済的な背景や親の学歴が生徒の将来を決めてしまわないように、選択のガイダンスやサポートなどが充実していた。「スウェーデンの教育と比較して、日本の高校教育を客観的にみることで、日本の教育の現状を改めて考えることができる」と語る。「どちらが優れているとか、何かを導入すべきという訳ではなく、国を超えて比較することに意義がある」。そのことが、高校教育に多様性をもたらし、個人的にも社会的にも意義を考えながらより良い教育をつくることにつながると本所先生は考える。
教育方法学~スウェーデンの高校教育との比較から導かれる道~
教育方法学は、より良い教育やその実践のあり方を探究する学問分野である。本所先生が専門とされる「カリキュラム論」では、学校で生徒が学ぶ内容や目的がどのように形作られてきたのか、将来の社会や生徒自身の生活にどう関与するのか、より効果的な教育方法のあり方はどのようなものかなどを深く研究する。前述のスウェーデンの高校教育に焦点をあてた研究では、同国の教育に関する歴史的背景や経緯から、その教育に内在する理論を明らかにしつつ、現地調査を通して日本などの高校と教育実践を比較する研究なども行っている。多様な方法を知ることは、本所先生自身の教育スタイルにも少なからず影響を与えている。「いろんな物差しがあると良い」、「中学を卒業する頃には生徒はそれぞれの良さ(個性)を育んできている」と言う。「テストで良い点が取れなくても、生徒には将来、さまざまな未来がある。その可能性を広げる道が学校という制度の中にもあればいい」と語る。
学ぶことの楽しさを伝えたい
本所准教授の志は「学びを一緒に楽しむ」こと。シンプルなワクワク、知的好奇心、本質に触れる楽しさ、世界の見え方が変わる楽しさ、そして自分が変わっていく楽しさ。本当の学びには、楽しさがしっかり詰まっている。教師は、生徒とともにその学びを楽しんでほしい。その環境を実現するのが本所先生の考える教育の「場」である。「学びを楽しむことは、人生を楽しむことにもつながる」と語る。自身も、今できることから次の一歩を踏み出すことを大切にしている。それは学びであり、その一歩は自分をどんな未来に連れて行ってくれるだろうかと常に考えるという。教育は、ここまでできたら終わりということはなく、それぞれの時代での、試行錯誤の連続である。そのなかで、学校は単なる知識の伝達ではなく、生徒と教師がともに学びを楽しみながら次の一歩を踏み出すための出発点であり続けてほしい。
(サイエンスライター・見寺 祐子)