「地域の発展に貢献すること」―文化に触れ地域の魅力をともに学ぶ―
金沢大学国際日本研究教育センター
准教授 ママードウァ アイーダ
地域の方々への感謝の気持ち ~地域の魅力を伝える体験学習へ~
幼少のころから日本の文化に憧れて、およそ20年前にアゼルバイジャンから来日したアイーダ准教授。当初、日本語を話すことができなかった自分に、地域の方々は優しく接してくれたという。日本での生活を続けるなかで、アイーダ先生は、日本の文化や人びとの思いやり、来訪者へのおもてなしの精神に大きく共感した。しだいに「何らかの形で恩返しをしたい」と考えるようになり、現在取り組んでいる白山ユネスコエコパーク(※1)白山手取川ユネスコ世界ジオパーク(※2)での活動に至った。「日本での自分の体験を若者たちに共有し、地域の魅力を学んでもらいたい」という考えから、留学生や日本人学生とともに、白山ユネスコエコパークや白山手取川ユネスコ世界ジオパークでの地域の発展を目指したさまざまな活動を行っている。
※1:白山ユネスコエコパーク…白山を中心とした石川県白山市、富山県南砺市、福井県大野市・勝山市、岐阜県高山市・郡上市・白川村の4県7市村にまたがる、自然と人間社会の共生を目指して指定されたエリア。
※2:白山手取川ユネスコ世界ジオパーク…石川県白山市の全域を対象とする自然公園のこと。登録地域の一部は、白山ユネスコエコパークと重なっている。2023年に、国内で10番目の世界ユネスコジオパークに認定された。ジオパークは、地球や大地の遺産の保護とその活用を目的とする自然公園のこと。
地域が先生:Education for Sustainable Development(ESD)
アイーダ先生が取り組むのは、地域全体が学校となり、地域の人たちが先生となる体験型の教育と、その活動を通じた地域の持続的発展である。NPO法人白山しらみね自然学校と強く連携し、‟地元の方々の手“による白山ユネスコエコパークや白山手取川ユネスコ世界ジオパークの魅力を学生に伝える教育活動を展開している。そこでは、地域の人たちが先生となり、学生たちに集落の伝統的な文化やライフスタイルを学ぶ機会を提供している。学生たちは、囲炉裏を囲んで、シコクビエ(白山地域で古くから栽培されている雑穀)を含む伝統的な料理を実際に食べながら食文化を学ぶ。また、炭づくり体験や白山の開山に由来する「白山祭り」への参加により、地元の人々の暮らしや伝統文化に接する。さらに、白山国立公園の大自然も学びの場となる。白山でのトレッキングを通じて、学生たちは地域の自然の魅力や自然との共生を体験できる。
現代社会の諸問題の解決と、環境、経済、社会の統合的な発展を目指す教育理念は、ESD(持続可能な開発のための教育)と呼ばれる。ESDは、国連が採択したSDGs(Sustainable Development Goals)の17の目標の全ての実現に寄与すると考えられている。アイーダ先生が中心となり、白山ユネスコエコパークで行っている一連のESD活動は世界的に高く評価され、2023年にユネスコの日本ESD賞を受賞した。「世界の100以上の国から申請があったなかから選ばれたことだけでなく、長年続けてきた地元の魅力を伝える活動が世界的に認められたことはとても嬉しかった」とアイーダ先生は語る。
若者とともに地域の発展に貢献したい
アイーダ先生に志を聞いたところ、「My aspiration is to inspire young people to contribute to the regional development(私の志は、若者たちに地域の発展に貢献する気持ちを促すことです)」という答えが返ってきた。現代の日本は、高齢化や若者の地域離れという課題に直面している。白山ユネスコエコパークや白山手取川ユネスコ世界ジオパークにおけるESD活動を通じて、この解決の糸口を見つけることは、世界のさまざまな課題の解決や持続的発展にもつながるはずである。学生たちが地域に定着し、自らの手で新しい事業を立ち上げたり、地域活性化の取り組みを始めたりする姿を見ることがアイーダ先生の何よりの喜びとなっている。活動を通じて地域住民との信頼関係は益々深まっている。その輪に若者たちが入ることで、アイーダ先生の目指す、自然と共生した持続可能な地域社会に向けた活動は加速していく。アイーダ先生の情熱が、地域社会の持続可能な発展に大きく寄与し、未来の世界をつくる若者の成長に寄与することを心から期待している。
(サイエンスライター・見寺 祐子)