ご出席いただいた経営協議会学外委員の皆様
川本 八郎 学校法人立命館 名誉顧問
國澤 隆雄 学校法人大阪医科大学 相談役
林 幸秀 科学技術振興機構 研究開発センター 上席フェロー
矢部 彰 新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター ユニット長
司会(有松理事) まず,本座談会の趣旨から説明させていただきます。国立大学協会の理事会において,「平成28年度概算要求が第3期中期目標期間の行く末を決定する重要な予算であり,中身もさることながら予算額を確保する必要がある。そのためには,社会に対し,国立大学に係る予算の現状を説明した上で理解を求め,応援していただくことが必要である。」との意見がありました。その意見に対する取組の一つとして,学長自らが,国会議員,経営協議会学外委員,地方自治体,地域産業界等の関係者と積極的に意見交換の場を設け,国立大学への期待・要望を伺い,社会に発信することが提案されました。本学では,これまでに国会議員,報道機関,企業等の方々との対談を実施しており,その一環として,本日,経営協議会学外委員との座談会を開催させていただきました。
山崎学長(以下,山崎) 第1期中期目標期間では1%の,第2期中期目標期間では1.3%の,12年間で合わせて約15%の運営費交付金が削減されました。第3期中期目標期間については,現在検討中ではありますが,これまでの方向性は適切だったのか,これからどうあるべきか,について考えていかなければならないと思っています。そのためにも,本日は忌憚のない御意見を頂戴したいと思いますので,よろしくお願いします。
(写真左から山崎学長,矢部委員,林委員,國澤委員,川本委員)
矢部委員(以下,矢部) 運営費交付金について,教員一人当たりの配分額が減ってきており,これだけではほとんど研究できない状況になってきています。本来,運営費交付金には最低限の研究経費が確保されていなければならないと思います。競争的資金は大型化してきており,研究資金を獲得できない教員もいると思いますので,それらの教員がやる気が出るように予算配分においてきめ細かな配慮が必要ではないでしょうか。今後も運営費交付金が減額される方向のようですが,最低限の研究経費は確保していただきたいと思います。
文部科学省は,運営費交付金の重点支援における3類型化など極端な方策を実行しています。地域に貢献し,世界的な研究を行うことが本来大学に与えられた本質的な使命だと思うのですが,どちらかを選択させるということは,大学を混乱させ,消耗させることに繋がります。また,大学のOBなど外部の方からの意見もいろいろと寄せられていることと思いますが,単純な議論に乗らずに大学の多様性にも配慮していただきたいと思います。
林委員(以下,林) 国立大学が法人化したことによるひずみを修正できるよう,山崎学長には地方大学の立場として意見を述べていただきたいと思います。
また,現在,日本全体がぬるま湯に浸かっているように見受けられます。安全運転も大事だと思いますが,大学のリソースを見出し,大胆な方策を打ち出していただきたいと思います。
國澤委員(以下,國澤) 国の施策として,高等教育に対する支出があまりにも少なく,欧米並みに引き上げる必要があるのではないでしょうか。また,学生一人に対する高等教育経費も少ないと思います。一部の大学を除いて,運営費交付金のみでは人件費や教育研究経費を賄えない現状があります。この状況は,国立大学法人としては異常であり,運営費交付金で少なくともこれらの経費を確保できるようにすべきであると思います。旧帝大のように競争力のある大学では,多額の外部資金を獲得しており,各国立大学法人に運営費交付金を一律に配分するのではなく,傾斜を付けるべきではないでしょうか。また,運営費交付金の複数年度使用を認めるなど,汎用性が必要ではないかと思います。資産運用についても自由度がなく,法人化したメリットがあるのか疑問です。法人化した以上,国は大学の自由度に配慮しなければ,ますます世界の列強と競争していけなくなると懸念します。
金沢大学が重点支援の枠組み3を選択したことは評価します。金沢大学には世界に伍していける研究もあり,予算配分における選択と集中が必要となってきます。資金調達においては,病院収入と学生納付金が重要であると考えます。金沢大学の病院収入は,30~40億円は伸ばせる余地が十分にあると思われるので努力していただきたい。また,寄附金について,ある大学では,資金獲得の専門家を20名雇用し,一人当たり100名の卒業生にアポイントをとったところ,そのうち平均して10名が面会に応じ,うち2~3件の寄附があったと聞いています。寄附金を獲得しようとする場合,直接会うことが効果的であり,金沢大学においてもこのような専門家を公募してはいかがでしょうか。
これらの方策で得られた資金を活用して,世界ランキング200位以内を目指していただきたいと思います。
川本委員(以下,川本) 科学技術や人材育成の重要性は、政府・文部科学省も言っていることですから,教育と研究に対して,より多くの予算配分が行なわれるべきではないかと思っています。企業においても産学協同と言っていますが,大学に対する寄附金もアメリカに比べると日本はあまりにも少ない。これは,日本の研究体制,力量,課題,規模が貧困であるからだと思います。この状況を改善するのは文教政策であり,山崎学長には,これからは金沢大学のみならず,「日本の大学全体をどうするか」といった観点から活動していただきたいと思います。
国立大学の予算が厳しいのであれば,受益者負担の観点も考慮して,大学のレベルや学部の教育内容に応じた学費の改定が必要ではないでしょうか。また,社会の情勢やニーズに応じた学部の整備など大胆な構造改革が必要であると思います。
これまでの国立大学は金太郎飴のようにどこを切っても同じであり,金沢大学には特色のある面白みのある大学になっていただきたい。学生は,文化,体育等で多彩な活動を展開し,生き生きとしていなければなりません。そのためには学生規模も必要であり,学生数をもっと増やしてもよいのではないでしょうか。また,金沢大学は自然科学系が中心に見受けられますが,人文社会科学系の活性化に向けた教育政策や育成政策を考える必要があると思います。
寄附金については,単に記念事業を謳ってもそれほど集まりません。立命館大学では,理工学部の移転を契機に,教員の研究内容と近隣の企業との研究内容のマッチングについて調査を行い,その結果を基にそれらの企業を訪問して教育研究費等を募った結果,一定の成果を得ることが出来ました。
このように何をするかを具体化しその内容を示す必要があると思います。このような寄附金募集の業務に当たっては,教員と事務職員が一体となった教職協働体制を構築することが必要となりますので,教育研究の活性化に向け,検討していただきたいと思います。
山崎 国立大学は基礎研究力が必要であり,最低限の研究費を保障しなければなりません。しかしながら,金沢大学では光熱水料の経費が増加しており,研究費を逼迫させています。このような状況の中でも特定の研究に予算を重点配分していますが,これも限界にきています。
学生数は簡単には増やせないのですが,教員を増やすことは可能であり,金沢大学でも有期の教員ではありますが,この1年で数十人増加させました。教員数も研究力の基礎であり,量を増やし研究力を強化していきたいと考えています。学生数に関しては,社会人学生を呼び戻して社会人教育を進めていきたいと考えています。外国でも社会人学生を増やすことにより収入を上げ,これを大学の重点施策に集中投下している例が見受けられます。与えられた自由度の範囲で少しずつでも成果を上げていきたいと考えています。
川本 選挙権を与えるなど18歳を大人として扱うことが検討されています。今後,18歳の者に対する社会学や政治学の教育が課題となってくると思われますが,この課題に対しては金沢大学の学校教育学類が真摯に取り組むべきであると考えます。社会と行政から出される諸課題を敏感に捉える体制が求められるのではないでしょうか。
山崎 本来は附属学校園と学校教育学類が一緒になって,日本の教育の方向性を研究し,実践していかなければならないのですが,本学では今一つ連携が図られていない状況ですので,今後検討していきたいと思います。
林 国立大学全体の課題と金沢大学の課題を分けて考える必要があるのではないでしょうか。国立大学全体については,法人化後10年以上経過し,それなりに課題や方向性が見えつつあると思われます。国立大学協会でその解決策を示し実行すべきと思われますが,どうなっているのでしょうか?
山崎 課題はある程度整理されていると思われますが,解決策として示されているのは,国立大学への寄附金に対する税額控除くらいです。国立大学協会自体が,規模等が異なる大学の集合体であり,規模ごとに異なる課題に対してまとめて解決策を示すことは困難なので,グループに分けて整理する必要があると思います。
林 各大学から解決策を示さないと進まないのではないのでしょうか。解決策が最も見えているのは学長だと思われるので,意見を言っていただきたい。
川本 立命館大学が初めてデュアルデグリー・プログラムを導入した際にも,最初は「前例がないから難しいのではないか」といったご意見もありました。しかし,前例がないことを行なわないと発展しません。「まず,やってみる」という気概がなければ,大学改革は進みません。
矢部 現在の金沢大学の改革には幾つか特徴のあるものがあると思いますが,この改革は金沢大学が変わるために実行する,というメッセージを教職員に対して発することが必要ではないでしょうか。
國澤 大阪医科大学では,LDセンターを立ち上げる際に寄附講座として企業から1億2千万円の寄附金が集まりました。また,学生の講義実習棟を建築する際はPA(Parent’s Association)会を創設し,毎年一定額のご寄付をいただいております。これらは大学の安定的な収入となっており,同棟の建築費や設備費等に役立てています。この方法は金沢大学でも実現の可能性があり,検討してはいかがでしょうか。
また,利益を上げている企業は,外国の大学に10億円単位で寄附しています。企業は有益なものには資金を提供するものであると思いますので,金沢大学でもこれというネタがあれば寄附してもらえるのではないでしょうか。
川本 立命館大学では,小学校・中学校・高等学校のPTAや保護者会を参考にして,立命館大学父母教育後援会を立ち上げ,入会金や会費等の一部を活用し,学生を励ますための奨学金制度を創設しました。この制度は,学生を活性化するものでありますので,父母からの賛同を得ています。
山崎 多岐に亘る意見をいただきましたが,一つ一つ検討していきたいと思います。本日は貴重な御意見をいただき,誠にありがとうございました。